火星SF

火星縦断 (ハヤカワ文庫SF)

火星縦断 (ハヤカワ文庫SF)

NASAの現役スタッフの手による火星SF。現役の科学者/研究者が物語の世界に入ってきて面白かった時代はまだまだ終わってなんかいない。甘さのない描写が描き出す宇宙開発の姿の濃密なリアリティは現役スタッフならではのものだ。本書では、火星に行って「帰ってくる」ことのプロジェクトの重さが幾度となく語られ、少なくない犠牲を出しながらも、人類が挑戦する姿が描かれる。
極限状況で火星の北極を目指す5名の登場人物は多彩だが、二人もストリートキッズ出身者がいると少々作為を感じてしまう。とはいうものの、多彩な環境から宇宙を目指す様々な動機や巡り合わせは純粋に楽しんでしまおう。人物の描写にそれほど深さがあるわけではないが、なぁに、現実の人間だってこの登場人物の何分の一も深くはないさ。
火星ガジェットも数多く紹介されるが、こちらはサービス過剰ぎみ。
帯やあとがきでは火星年代記 (講談社ルビー・ブックス)火星の砂 (ハヤカワ文庫 SF 301)などの名作と比しているが、クラークはともかくブラッドベリはちょっと違うかもしれない。