『ゲド戦記』

T-JOY大泉のレイトショーを見に行く。なんたって東京でたった二つしかやってないゲド戦記DLP上映館だ。あとは劣化するわほこりも出るわ画質悪いわのフィルム上映館しかない。なんてこったい。
内容は、大変に楽しんだ。絵も丁寧だ。
近年のジブリ作品の絵は線が細くてちょっと力の弱さを感じていたんだけど、今回のゲド戦記では力強い筆致が各所に見られた。線が少ないのでデッサンが狂っている部分で絵の落差が大きく感じることもあったが、ま、許容範囲だ。背景も、あれだけのデジタル処理を行っていながら手描きのタッチが生かされている。雲の表情があれだけ出ている映像作品はそうそうないだろう。
動きの処理も丁寧だ。俯瞰時の人間の動きがじれったいほど遅く描かれているところやパースのきつい部分での動作の速度など、人間の心理を動かす演出がとてもよい。今回特に気に入ったのは、影の作画だ。草原を歩く人物の影が丁寧に草の形に抜けているといったテクニカルな部分もさることながら、夕暮れの町でアレンの背後に長くのびる影が大変美しい。
内容については、これだけきっついスクリプトをよくそのまま通したな、というのが正直な感想だ。冒頭でいきなり「名」の概念をもとにした台詞が何の説明もなしに使われる。徐々に普通の会話の中でわかってくる世界の構造ではあるのだが、丁寧な説明台詞に慣れた向きにはきついプロットかもしれない。終盤はさすがに圧縮率が高すぎてちと消化不良気味。あと10分あればもっと丁寧に終盤を描けただろうに。
これだけのプロフェッショナルワークが、初監督であった宮崎吾郎氏の手のもとで作品としてまとまったということに惜しみなく讃えたい。鈴木プロデューサーの思惑や計画も大変大きく働いているのだろうが、作品が物語っているよ。この作品をまとめられた監督ならば、次回はもっと、いい作品を作れるだろう。

上映館について

今回は東京でたった二館しかやってない「ゲド戦記」のDLP上映館へ赴いた。画面の隅々までクリアな映像、マッハバンドやフィルムデュープでの色崩れ、細かなフィルムの上下動、ちらつき(映画館によっては見えちゃうんだよ)がないということが、どれだけ映像作品の質を高めることができるか、身をもって体験した。
Webで流れる予告編やDVDよりもきれいな映像を見ることができる。だからこそ映画館に行くんじゃないか。
また、音響設備がすばらしい。『ゲド戦記』の音響効果は大変丁寧で、草ずれの音や虫の鳴く声、反響音などがとても小さな音で使われているが、これ、デジタル化されてない映画館では聞き取れないんじゃないのかな。

追記

カットワークとカメラワークは、もう少し丁寧に処理してほしかった。
ゲド戦記』のカットワークはモニタ用に処理されている。映画は闇の中に映像が浮かび上がる。フレームを意識しなくていい映像媒体だ。だから、人物の頭を中途半端な位置で切るのは止めた方がいい。
カメラワークは、ちょっとリニアすぎる。もう少し動きだしとトメの瞬間に柔らかさが欲しい。